学校と宗教


おそらく、現在スイスの学校では、クラスにイスラム教の子供がいるのはごく普通のことになっている。いない方が珍しいだろう。
40年近く前は、イタリアからの労働者移民が多く来たが、スイス人と同じキリスト教だった。
現在はトルコをはじめとするイスラム圏の移民が多く、2世代3世代目の子供たちが学校に通っている。
各家庭によって、戒律の厳しい家とそうでない家の差があり、すでに親がブルカなどのイスラムの衣装を着用していない家もある。

スイスでは、度々学校でのブルカ着用の禁止が議論に出され、ティチーノ州では2013年に州議会で公衆の場で着用禁止を承認されている。
しかし、アラブの国の観光客もいるため、少し行き過ぎではという声もある。

やはり一番問題にしているのは、学校での着用だろうか。このブルカ着用以外では、水泳の授業に出ない、男子生徒が女性教師と握手をしないなど、問題行動も見られることから、各州において、住民投票にかけられているケースもある。
宗教の自由が保障されているのならば、学校での勧誘活動をしない限りは良いのでは声もある。

一方で、小学校では「宗教」の授業がある。これはいろんな宗教のことを学ぶのではなく、キリスト教の授業だ。
先生は教会から派遣されたシスターの方が多いが、課外授業として教会に出向き、宗教的な行事にも参加させる。
しかし、イスラム教の子供は拒否することができる。
では、イスラム教でもキリスト教でもない子供は、参加を断れるのか?というと、担任に申し出て断ることができる。

当方が少し気になるのは、この「宗教」の授業を通して、キリスト教でない子供を勧誘している先生もいることだ。
神様からの頂き物だとして、小さなキリストの人形をもらったり、洗礼の儀式を子供たちにしたり、教会の行事に頻繁に誘われる。無論、キリスト教の家庭においては、何の違和感もないことだが、そうでない場合は違和感がある。当方の経験から一番問題だったのは、他宗教を否定する内容を子供達に話していたこと。さらには宗教とは関係ない、特定の食事や飲み物を、体に害があるから食べるなとかいう内容のことも子供達の前で話していた。非常識でかなり押し付け気味の先生だったため、この件は学校にも親からクレームが入り、その教師は次のセメスターから外された。

スイスはもちろんキリスト教の国だ。しかし、イスラム教の子供が学校で勧誘活動をしないのに対して、キリスト教の授業では勧誘まがいのことをする。
宗教の自由が保障されているので、授業の参加を断ることが可能だが、それなら授業の名称を「キリスト教」とか「聖書」などに変えて欲しい。
宗教の授業はあくまで個人の裁量に任せられるが、こうしたケースの対応が早いのもスイスならではかもしれない。

余談だが、当方もプロテスタント系の学校に通って、毎週聖書の授業と礼拝があった。
キリスト教の歴史にも触れ、実際にチャペルでの行事も参加し興味深かった。これだけ世界のグローバル化が進む中、他の文化や宗教を知ることは大切であると思う。
しかし、どの世界でも押し付けは良くないし、一方的な決めつけだけで法律を変えるのも問題がある。
スイスはうまくやっている方だと思うが、各州レベルでの投票を含め、今後も国全体で考えていくべき事項だと思う。