国民投票 「武力からの保護」

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★ jp-Swiss-journal – Vol. 124 – February 05, 2011 (Swiss Time)

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【 目次 / INDEX / INHALTSVERZEICHNIS 】

【J】 国民投票 2011年02月13日        明子 ヒューリマン
   「武力からの保護」
          
【E】 National Voting on February 13, 2011  Akiko Huerlimann
   
   

□━━━━━━━━━━━━【 日本語 】━━━━━━━━━━━━━━□

     国民投票 2011年02月13日
     「武力からの保護」

     明子 ヒューリマン

未だ先の事と思っている内に、1月半ばに地元自治体から国民投票の資料
*1) が送られてきた。今回の国民投票に気付いて資料を集め出したのは昨
年11月初旬頃だったが、政府資料は2010年11月3日付なので、比較的早く
気付いたようだ。今回の議案はドイツ語では <Fuer den Schutz vor
Waffengewalt>となっている。国民発議の表題は心情に訴えるような「何
々の為に」等という表現が多いので、簡潔な和訳には苦慮する事が多い。
今回の議案の要点は、武器の不正使用を防ぐ事だ。その方策として、兵士
の自宅に置いてある銃を武器庫で集中管理し、州レヴェルの管理体制を連
邦レヴェルに引き上げるという内容だ。この発議の依って来るところは、
「女性や子供を銃から守る為」と、自殺に銃が使われる事を問題視した事
に依ると報じられている。

発議委員会 *2) には92の団体が名を連ねているが、発議を主導したグルー
プと発議を支持するグループに分けて掲載されている。発議を主導した政
党はSP(社会民主党)と緑の党。その他のグループとして、各種平和団体、
宗教団体、各種女性保護団体、GSoA(スイス非武装グループ)、精神科の
専門家集団、独立系医師会、自殺防止団体等広範なグループが発議に名を
連ねている。発議支持の団体には中道政党の地方支部(CVP、FDP)やその
婦人部、労働組合、児童保護団体等様々な団体が名を連ねていて中々興味
深い。アムネスティー・インターナショナルの名前もある。犯罪だけでは
なく、自殺防止効果も可なり期待されている事が伺える。

一方、反対派 *3) には中道・保守政党が名を連ね、政府・議会も反対投
票を勧めている。今回の議案には犯罪や銃器の違法取引を抑止する効力は
無く、自殺をする者は銃が無ければ他の手段を取ると反論。銃器を武器庫
で管理する事になれば膨大な事務手続きを要すると否定的。兵役の初年兵
訓練では銃火器取り扱いの試験に受からなければならないし、これまで各
州は銃の管理を厳重に行っている等々、反対派の理論武装は堅固だ。

賛否の形勢は、ターゲス・アンツァイガー紙が折々世論調査の結果を報じ
ている。2010年12月7日付オンライン調査は賛成49%、反対46%、未定5%と賛
否が拮抗していたが、2011年1月15日付では賛成52%、反対39%、未定9%と賛
成の比重が過半数に達している。ところが、投票日を直近に控えた2011年2
月3日では、賛成47%、反対45%、未定8%と反対が追い上げてきたとSRG(ス
イス放送協会) *4) の調査結果が報じられた。TV討論番組「ARENA」でも
取り上げられ、新聞各紙の読者欄でも賛否共に多くのコメントが寄せられ
ている。だが、国民の意思は揺れ動いているようで、結果は蓋を空けてみ
ないと分からない、というところだろうか。

そもそもスイス国民が銃を自宅に保管するようになった起源を考える必要
があろう。スイスの国是である永世中立は国民皆兵 *5) が基本なので、兵
役を務めた国民は実弾無しで自分の武器を自宅に保管し、決められた射撃
訓練を行う事になっている。民間防衛 *6) の要だ。国防の為日頃から武器
に慣れておく事が求められている訳だ。スイス民兵の銃は置物ではないと
いうことだ。日本でもかつて封建時代には、武士階級は平時から武具の手
入れを怠らず、武術の鍛錬をしていたのと同じ理由だ。武器は手にしても
習熟していなければ危ないだけで役に立たないものだ。四方を列強に囲ま
れた山岳民族の小国にとって、ウィリアム・テルの時代は弓矢、現代は銃
でゲリラ戦を戦って民族の自決権を図るという伝統がある。未だに世界各
地の局地戦では銃も使われているので、銃は今でも時代遅れの武器とは言
えないのが現実だ。米国のように頻繁に銃撃事件が起きている訳ではなく
、軍隊の銃器管理は相応に行き届いていると言われている。

年々国民投票の発議が盛んになっていると報じられているが、これは国民
の政治参加への熱意と見る事が出来る。一方で、発議される議案には法制
化が困難な事例が多く、検討委員会が何年にも亘って検討を重ねる為、法
制化過程の道のりが遠く、場合によっては政府・議会による修正案が国民
投票に図られる場合も多々ある、という問題点がある。しかし、これは民
主主義には避けて通れない道程であって、避けるべきではないと思う。こ
うした手続きは国民と政府・議会双方が問題意識を深められる機会になるの
で、民主主義のコストと言えよう。21世紀の今日、世界の先進工業国は上
辺だけは民主主義を声高く標榜しているが、その陰で武器開発に邁進し、
世界中に拡散させている。米ロの核軍縮は、大量の保有量を持て余して困
っていたからだろうが、骨抜きの条約が締結されたと報じられている。こ
れが世界の現実だ。スイスが永世中立を維持しようとするなら、今有る築
き上げてきた自衛の手段を手放すべきではないのではないだろうか。

【 参照 】

*1) 政府・議会による詳細情報:
www.admin.ch www.parlament.ch www.ch.ch
*2) 発議委員会: www.schutz-vor-waffengewalt.ch
*3) 発議反対委員会: www.waffeninitiative-nein.ch
*4) スイス公共放送「国民投票」キャンペーン:
http://www.tagesschau.sf.tv/Ratings/Abstimmungs-Kampagnen-im-
Vergleich/%28voted%29/lookahead
*5) 国民皆兵:
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E7%9A%86%E5%85%B5
*6) 民間防衛:
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E9%96%93%E9%98%B2%E8%A1%9B

【 編集後記 】

日本のように大きな国では、スイスのような直接民主主義の手法は取れな
いという見解もあるが、国民に議論する機会を提供出来る事は、民主主義
を成熟させる上では重要だ。日本で地方分権が本格的に進められれば、ス
イスの直接民主主義には参考に出来る部分が多々あると思う。

スイスと日本を基点にグローバルな視点で、ニュース性に重点を置きなが
ら、適宜日英独仏語の多言語でお届けします。不定期発行: 発行案内は
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